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第37話 すれ違いの音

Autor: marimo
last update Fecha de publicación: 2026-03-04 20:09:13

 綾乃は、静まり返った邸宅の廊下を、足音を殺すように歩いていた。

 夜はすでに深く、照明は落とされ、壁に掛けられた絵画だけが淡く浮かび上がっている。

 書斎の前を通り過ぎようとした、そのときだった。

 不意に、ドアが開いた。

「帰ったのか?」

 低く、抑えた声。

 思わず、綾乃は足を止め、振り返る。

 そこに立っていた玲司は、いつもと同じはずなのに、どこか張りつめて見えた。

「ええ。遅くなってごめんなさい」

 形式的な謝罪。

 自分でも驚くほど、感情を込めない声だった。

 そのわずかな違いに、玲司はすぐ気づいた。

 昨日までとは違う。

 距離を取られている――そんな感覚が、胸をざわつかせる。

「誰と会っていたんだ?」

 口をついて出た言葉に、玲司自身が一瞬、息を詰めた。

 ”どこへ”ではない。

 ”誰と”。

 しまった、と気づき、すぐに言い直す。

「いや、どこに行ってたんだ?」

 綾乃は一瞬、視線を伏せた。

 ほんのわずかな逡巡のあと、顔を上げる。

「昔からの友人に会いに行っていたの。まずかったかしら?」

 冷たい声音。

 突き放すような響きに、玲司の胸がひりついた。

(夫婦としての
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